1.初めに
コロナ禍の下、日本においてもオンラインによる食品宅配市場は拡大しています。
このような中、2021年2月19日、英最高裁(The Supreme Court of the United Kingdom)は「Uberが提供するスマートフォンアプリ(the ”Uber app ”)を通じ、ウーバーとの契約に基づいて働く労働者(worker)には、最低賃金と有給休暇が与えられるべきである」とする判決を下し、ウーバー側の「運転手は個人事業主(Independent
contractor)である」とする主張を退けました(注1)。
2.運転手は労働者(worker)なのか(注2)
《ウーバー側の主張》
上告人等は「当社は運転手がUber appを利用するための、単なる予約代理人(booking agent)である子会社(Uber London Ltd)に対する技術プロバイダーに過ぎない」「Uber appを通じた予約の際、顧客と運転手との間で契約が成立、運転手は運送サービスの提供に同意する」「Uber
appを通じて料金は計算され、顧客から徴収された金額の20%を差し引いた残金が運転手に支払われる」「当社はこれらの技術の使用料の対価として、ドライバーに成り代わって代金を徴収、技術サービスの対価を運転手に請求している」と主張しました。
これに対して、最高裁は労働審判(Employment tribunal)で指摘のあった5つの視点を指摘、原告はウーバーとの契約の下で働く労働者(worker)であると判決を下しました。
《最高裁の判断ポイント》
①Uber appを通じた予約料金はウーバーが決めるもので運転手には裁量がない。
労働者が提供する労務の対価を決めるのはウーバーである。
②運転手が提供するサービスを定める契約条項はウーバーが一方的に決めるもので、運転手は一切口をはさむことができない。
③運転手が一度Uber appにログインすると、運転手が注文を受けるかどうかの判断は制限される。また、運転手の辞退率が一定水準を超えると、ウーバーによって強制的にUber appが切断される。
④運転手がサービスを提供する際、ウーバーは車両や通過点等、様々な制限を課す。
⑤顧客からの注文は、ウーバーによって機械的に近隣の運転手に割り振られるだけであり、顧客と運転手との自由なコミュニケーションは阻害されている。
以上を総合すると、Uber appを通じてのサービス提供はウーバー側によって極度に制限されたものである。運転手は代替可能であり、ウーバーとしては標準化されたサービス提供によって顧客から信頼を得ている。
運転手側の裁量によるサービス提供は不可能であり、より高い賃金を得るための手段は長時間労働のみであり、運転手は労働者(worker)である。
3.日本への示唆
日本の税制ではどのような取り扱いになっているのでしょうか?
日本における税制については、
「個人事業者と給与所得者の区分」について、「その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか」「役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか」「まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか」「役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか」とするメルクマールが示されていますが(注3)、デジタルエコノミー下では働き方も多様化しており、「事業所得」「給与所得」の区分のみならず、「持続化給付金」の給付時にも問題となったフリーランサー等の「雑所得」の区分も絡み、状況は複雑化しています。
日本において「UberEats配達パートナー」として主たる生計を立てている個人事業主が提供するサービスについて、サービス提供の実態からみた際に法的な議論になった場合には社会保障(社会保険料の徴収)のみでなく、税制(給与所得控除、給与所得の源泉徴収、消費税の仕入税額控除)も絡むこととなります。
デジタルエコノミー下での当該最高裁判決が、英国に止まらず、我が国の労働法制や税制にどのように影響を及ぼしてくるか、「雇用」VS「請負」の判定にどのように影響を及ぼしてくるか、非常に興味のあるところです(注4)。
群馬県よろず支援拠点
コーディネーター 笹尾 博樹
(注1) <https://www.supremecourt.uk/cases/uksc-2019-0029.html>
https://www.supremecourt.uk/cases/uksc-2019-0029.html 最終アクセス2021年3月5日
(注2) <https://www.supremecourt.uk/cases/uksc-2019-0029.html>
https://www.supremecourt.uk/cases/uksc-2019-0029.html 最終アクセス2021年3月5日 「Press summary」より引用
(注3) <https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/01/01.htm>
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/01/01.htm 最終アクセス2021年3月5日
(注4)令和3年3月26日、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名にて「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が公表されました。当ガイドラインにおいては、「形式的には雇用契約を締結せず、フリーランスとして請負契約や準委任契約などの契約で仕事をする場合であっても、労働関係法令の適用に当たっては、契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて、「労働者」かどうかが判断されることになる。以下に示す判断基準により、「労働者」に該当すると判断された場合には、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)や労働組合法(昭和 24 年法律第 174 号)等の労働関係法令に基づくルールが適用されることとなる。」(17頁より引用)とされています。
出典: <https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17629.html>
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17629.html 最終アクセス:2021年3月26日